春

先の土曜日、相方の出勤日であった故、例によって例の如く温泉に浸るべく、香川の奥座敷まで足を運んでおった。

素っ裸になって浴室に入る。浴室には割と若げな♂2名が居った。かけ湯をして湯船に浸かる。久々の温泉故、極楽極楽。と棺桶に片足突っ込んだ爺が吐くような台詞を思い浮かべながら、温泉を満喫しておったときだ。先客の♂2名が会話を始めた。

やっぱり好きになったみたいや。
じゃ、告白したらええやん。
でもなー、お互い名前も知らんやん。それにもしここで振られたら、もう二度とあの店に逝けんやん。
そやな、それがネックやな。

まぁ、ありがちな話である。どうも片方の♂が逝きつけの店の♀に惚れたらしい。それで面白そうな展開であった故、腐敗は耳をダンボにして訊くことにしたのである。以下続き。

どうやって切り込んで逝こうか。
そりゃお前、名前から訊いたらええやん。
えーっ、名前かー。いきなり失礼とちゃうん？
でも名前を訊かないとそれから先に進まんやろー。
そっかー。でも俺は先ず年を訊くべきと思うんやけど。

初対面で年から訊くほうが、よっぼど失礼と思うのだが。

そやな、年が離れてたらコッチが引くもんな。

いきなりそんなことを訊くほうが、ドン引きされるじゃねえか、このボンクラども。

そやろー。やっぱり先ずは年からやって。

待て待て。ガチでそう思ってるのか。お前らはよっぽどの低脳揃いだな、コンチクショーめが。などと気を揉んでおる腐敗の存在に気憑いたのか、連中は急に静かになった。その均衡を破ったのは相談を持ちかけられた♂だった。

・・・・・・。
・・・・・・。
よっしゃ、問題っ。
おう。
ドラゴンボールで出てくるピラフ様の子分、♂♀の名前は何？
シューとマイ。
なんで、お前知っとんやー。
そんなん、基本やが。

思いっ切り精神年齢が残念っぽい。話を聞いておるとどうも20代前半の模様。もっと話を聞きたかったが、いい加減のぼせてきたので、一旦洗髪をすべくその場を離れることにした。洗髪を済ませて元の場所に戻っても、連中は相変わらずドラゴンボールの話に興じておった。それからまた沈黙が訪れた。

・・・・・・。
・・・・・・。
やっぱり俺、年から訊くわ。
そやな、俺もそれがええと思う。年訊いたらあとは、ガンガンアタックするだけや。
おう。

ドラゴンボールの話に一生懸命興じる様といい、無謀としか思えないアタックを試みようとする様といい、彼の春はまだまだ先と思ったのである。もし、本当に年齢から訊くようなアプローチをするならば、ガンガンアタックする以前に玉砕すること必至と思わないかね、諸君。

否、待てよ。

そういえば、相談を持ちかけられた彼は、どことなく小狡賢い人相をしておったし、相談をしていた彼は人の良さそうな、コロッと人に騙されそうな人相をしておったしな。案外、

相談を持ちかけられた♂もその彼女に惚れ込んでおり、彼の破滅を謀っておるのやもしれぬ。